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医師の働き方改革を電子カルテで|タスクシフト・事務負担の軽減

医師の働き方改革は、長時間労働を前提とした診療体制を見直し、医療の質と安全を保ちながら持続可能な働き方へ移行する取り組みです。時間外労働の上限規制が本格化するなかで、多くの病院が具体的な打ち手を求めています。

本稿では、その打ち手の中核として電子カルテを位置づけ、文書・記録業務の削減、タスクシフト/シェア、医師事務作業補助者やICTの活用を実務目線で整理します。制度の詳細や上限時間は改定されうるため、最終判断は必ず一次情報で確認してください。

医師の働き方改革の背景を押さえる

背景には、医師の長時間労働が常態化し、健康被害や医療安全上のリスク、地域医療の担い手不足といった課題が積み重なってきた事情があります。時間外労働の上限規制は、こうした構造的な問題に歯止めをかける枠組みとして設けられました。

重要なのは、単に労働時間を数えて減らすのではなく、時間を生んでいる業務そのものを見直す視点です。診療に直結しない作業をどう減らし、誰に振り替えるかを設計しない限り、規制対応は現場の我慢に依存してしまいます。

また、改革は医師個人の問題ではなく、看護・医事・情報システムを含む病院全体の運用設計の問題です。特定の職種に負担が移るだけの対応では長続きしません。全体最適の視点で、どこにどんな仕組みを入れるかを組織として決めていく姿勢が求められます。

残業を生む文書・記録業務を可視化する

医師の時間外を生む要因の多くは、診療そのものより記録・文書・調整に由来します。カルテ記載、紹介状や診断書、各種サマリー、同意書の説明準備などが積み重なり、外来や病棟の合間や勤務後に持ち越されがちです。

まずは何にどれだけ時間がかかっているかを粗くでも棚卸しすることが出発点です。可視化することで、削減・標準化・移管のどれが効くのかを判断しやすくなります。感覚に頼った議論では、負担の大きい業務が見落とされがちだからです。

棚卸しの際は、量が多く定型的な業務ほど改善効果が大きい点に着目します。一件あたりは短くても、頻度が高ければ全体では大きな時間になります。逆に、頻度が低く専門的な判断を要する業務は、無理に自動化せず人が担う前提で残す判断も必要です。

  • カルテ記載・オーダー入力にかかる1日あたりの概算時間
  • 紹介状・返書・診断書など文書作成の件数と所要時間
  • 入退院サマリーや会議資料など定期的に発生する文書
  • 電話・照会対応や日程調整などの間接業務

なぜ電子カルテが改革の起点になるのか

電子カルテは診療情報が集まる中心であり、記録と文書、オーダーと算定をつなぐ結節点です。ここを起点にすれば、二度書きの排除や定型化、他職種への情報共有を仕組みとして設計でき、個人の努力に頼らない削減が可能になります。

逆に、カルテと周辺システムが分断していると、同じ情報を何度も入力し直す作業が残り、改革の効果は頭打ちになります。当社の Sakigake Prime のようなAIネイティブ電子カルテは、記録から文書生成までを一連の流れとして扱う設計を志向しています。

タスクシフト/シェアの進め方

タスクシフト/シェアは、医師が担ってきた業務の一部を他職種へ移す、あるいは分担する取り組みです。やみくもに振り分けるのではなく、対象業務の切り出しと権限・責任の整理、教育、運用ルールの明文化という順序で進めると定着しやすくなります。

移管先の職種が安心して担えるよう、判断が必要な部分と定型的に処理できる部分を切り分けることが要点です。曖昧なまま渡すと、確認のやり取りが増えてかえって非効率になります。

電子カルテは、この分担を支える基盤になります。誰がどの権限で入力し、誰が確認・承認するかをシステム上で明確にできれば、口頭の申し送りに頼らずに安全な分担が回ります。運用ルールとシステム設定を一致させておくことが、混乱を防ぐ鍵です。

  • 移管候補の業務を洗い出し、頻度と難易度で分類する
  • 誰が最終責任を持つか、確認の手順を先に決める
  • 移管先への教育と、判断に迷ったときの相談先を用意する
  • 小さく始めて振り返り、対象を段階的に広げる

医師事務作業補助者(クラーク)を活かす

医師事務作業補助者は、医師の指示のもとで文書作成やカルテ代行入力、各種オーダーの代行入力などを担う職種です。文書業務の多くを移せるため、働き方改革の効果が出やすい代表的なタスクシフトの担い手といえます。

効果を最大化するには、電子カルテ側でクラークが安全に代行入力できる権限設計と、医師が最終確認・署名する運用が欠かせません。代行と承認の責任分界を曖昧にしないことが、質と安全を守る前提になります。

クラークの育成には一定の時間がかかるため、採用や配置だけでなく教育の計画も併せて考えます。医学用語や記載様式への習熟が進むほど任せられる範囲は広がり、医師の負担軽減効果も大きくなります。配置初期は対象業務を絞り、段階的に広げるのが現実的です。

ICT・音声入力・生成AIでの負担軽減

記録・文書業務そのものを軽くする手段として、音声入力や生成AIの活用が広がっています。診察の会話や口述をテキスト化し、カルテ記載や文書の下書きを自動で用意できれば、キーボード入力に費やす時間を大きく削減できます。

ただし、生成AIの出力はあくまで下書きであり、内容の正確さは医師が最終確認する前提です。院内規程で認められた範囲・ツールで使うこと、患者情報の取り扱いを守ることが安全な活用の条件になります。詳しくは後段の注意点で整理します。

ICTの導入は、単に機器やソフトを増やすことではありません。音声入力や生成AIが真価を発揮するのは、記録から文書、算定までが一続きにつながり、入力した情報が再利用される設計があってこそです。個別ツールの寄せ集めでは効果が分散しがちな点に注意します。

  • 外来・回診での口述をその場でテキスト化する音声入力
  • カルテ情報から紹介状やサマリーの下書きを作る生成AI
  • 定型のオーダーや文言を呼び出すテンプレート・セット

テンプレートとオーダーセットを整える

自動化やAIに頼る前に、まず院内の記録・文書の型を整えることが効果的です。よく使う所見や説明文、疾患ごとのオーダーの組み合わせをテンプレート化すれば、毎回ゼロから書く負担が減り、記載のばらつきも小さくなります。

テンプレートは作って終わりではなく、現場の使い勝手に合わせて定期的に見直すことが定着の条件です。使われない型は放置せず整理し、実際の運用に合った最小限のセットに絞り込みます。

ただし、テンプレートに頼りすぎると記載が画一的になり、患者ごとの重要な情報が抜け落ちる懸念もあります。型はあくまで土台とし、個別の所見や判断は必ず書き加える運用にすることで、効率と記録の質を両立させることができます。

成功のポイント

働き方改革を電子カルテから進めて成果を出す病院には、いくつかの共通点があります。トップの明確な方針、現場を巻き込んだ設計、そして小さく試して広げる進め方です。ツール導入だけを目的化せず、業務の再設計とセットで考える姿勢が要になります。

もう一つの共通点は、現場の負担軽減という目的を見失わないことです。数値管理が先行すると、記録の質を落として時間だけ縮める本末転倒に陥りかねません。医療の質と安全を保ちながら負担を減らす、という軸を関係者で共有し続けることが成果を左右します。

  • 目的とKPIを先に定め、削減したい時間を数値で共有する
  • 医師・看護・医事・情報システムが同じ場で運用を設計する
  • 一部門・一疾患から試行し、効果を確かめて横展開する
  • 現場の声を集めて運用ルールとテンプレートを継続改善する

よくある誤解と回避策

「システムを入れれば残業は自然に減る」という誤解は根強くありますが、実際には業務の切り分けと運用設計が伴わなければ効果は限定的です。ツールは時間を生む作業を減らす手段であって、目的ではないと捉えることが回避策になります。

「タスクシフトは医師の仕事を丸投げすること」という誤解もあります。実際は責任分界を明確にした分担であり、最終的な医学的判断と確認は医師が担います。役割の再設計であって放棄ではない点を共有することが大切です。

導入・運用の注意点

音声入力や生成AIを使う際は、情報漏洩のリスクと院内規程の遵守を最優先に考えます。患者情報を外部サービスへ不用意に入力しない、承認されたツール・経路のみを使う、といった基本を運用ルールとして明文化しておく必要があります。

また、代行入力や自動生成の結果は必ず医師が確認・署名する体制を保ち、誰がいつ何を確認したかを追えるようにしておくことが安全性の担保になります。制度や算定要件は改定されうるため、対応は一次情報で確認しながら進めます。

導入前チェックリスト

着手前に、以下の観点を確認しておくと迷いが減ります。目的の共有から責任分界、セキュリティ、効果測定までを一度に点検し、抜けがあれば優先順位をつけて埋めていきます。

  • 削減したい業務と目標時間を、関係者で合意しているか
  • 移管する業務の責任分界と最終確認者を決めているか
  • 音声・生成AIの利用範囲と患者情報の扱いを規程化しているか
  • テンプレートやオーダーセットの整備・見直し担当がいるか
  • 効果を測るKPIと振り返りの周期を設定しているか

効果測定とKPIの考え方

改革の効果は、印象ではなく数値で追うことで継続の判断がしやすくなります。医師の時間外時間、文書1件あたりの作成時間、代行入力の割合、テンプレート利用率などを定点で観測し、施策と結びつけて評価します。

数値は完璧に揃わなくても、傾向が見えれば十分に役立ちます。悪化した指標があれば運用を見直し、良い変化は他部門へ広げるという改善サイクルを回すことが定着につながります。

定量的な指標に加えて、現場の実感やアンケートといった定性的な情報も併せて見ると、施策の評価が立体的になります。数値上は改善していても現場の負担感が変わらない場合、運用のどこかに見えていない摩擦が残っているサインと捉えて掘り下げます。

想定Q&A

現場から寄せられやすい疑問を整理します。いずれも「まず小さく試し、責任分界と確認体制を明確にする」という原則が共通の答えになります。

  • Q. 何から始めるべきか。A. 時間を生んでいる文書業務の棚卸しと、移管しやすい定型業務の切り出しからです。
  • Q. 生成AIは使って大丈夫か。A. 院内規程で認められた範囲・ツールで、医師の最終確認を前提にすれば有用です。
  • Q. 効果が出るまでどのくらいか。A. 対象や体制によりますが、小さく試して数値で追えば早期に判断できます。

具体例:外来の一日から削減余地を探す

たとえば、午前の外来を担当する医師の一日を具体的に追ってみます。診察の合間にカルテを書き切れず、昼休みに前半分の記載を補い、午後の会議後に紹介状と返書をまとめて作成し、夕方以降に退院サマリーへ着手する——といった流れは珍しくありません。一つひとつは短くても、記録と文書が診療の後ろへずれ込むことで、勤務時間が後ろへ伸びていきます。

この一日を工程に分解すると、削減の余地が見えてきます。診察中に音声入力でその場で記録を終える、紹介状は診察直後にカルテ情報から下書きを生成する、返書は定型部分をテンプレート化する、といった具合に、後ろへ持ち越していた作業を発生源で片づける設計に組み替えます。持ち越しをなくすだけで、体感の負担は大きく変わります。

重要なのは、削減の対象を「時間の長い作業」ではなく「後ろへずれ込みやすい作業」で見つける視点です。数分の作業でも、まとまった時間が取れずに何度も中断されると、実際には見た目以上の時間と集中力を奪います。一日の流れを時系列で書き出し、どこで作業が滞留するかを可視化すると、優先して手を打つべき工程が浮かび上がります。

  • 診察中に記録を完結できているか、後回しになっていないか
  • 紹介状・返書・サマリーが勤務後にずれ込んでいないか
  • 同じ情報を複数の文書へ書き写していないか
  • 中断が多く集中が途切れる工程はどこか

段階的な導入ロードマップ

働き方改革の打ち手は、一度にすべてを変えようとすると現場が混乱し、かえって定着しません。三つの段階に分けて進めると、無理なく効果を積み上げられます。第一段階は棚卸しと合意形成、第二段階は一部門での試行、第三段階は横展開と定着です。各段階で得た学びを次に活かす前提で設計します。

各段階には終了の目安を設けておきます。たとえば第一段階は削減対象と目標時間の合意、第二段階は試行部門での効果の実測、第三段階は運用ルールとテンプレートの標準化です。目安を明確にすることで、次へ進む判断が主観に流されにくくなります。制度や算定の要件は改定されうるため、各段階で一次情報を確認しながら進めます。

  • 第一段階:文書業務の棚卸しと削減目標の合意
  • 第二段階:一部門・一疾患での試行と効果の実測
  • 第三段階:運用ルールとテンプレートの標準化と横展開
  • 各段階で振り返りを行い、次段階の計画へ反映する

まとめ

医師の働き方改革は、時間を数えるだけでは前に進みません。時間を生んでいる記録・文書業務を可視化し、電子カルテを起点にタスクシフトと自動化を組み合わせることで、質と安全を保ちながら負担を減らせます。

音声入力や生成AIは強力な手段ですが、院内規程と確認体制が前提です。制度は改定されうるため一次情報での確認を欠かさず、自院に合う形から小さく始めることをおすすめします。具体的な設計はお気軽にご相談ください。