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急性期病院の電子カルテ比較|クラウド移行と選定の勘所

急性期病院の電子カルテ入れ替えは、十年に一度あるかどうかの大きな意思決定です。サーバー更新や建て替え、診療報酬改定を機に検討が始まりますが、いざ比較を始めると各社の機能表や費用の見せ方が異なり、何を基準に選べばよいか迷う場面が少なくありません。

本記事では、急性期特有の選定観点を軸に、クラウドの可用性やBCP、オンプレミスからの移行手順、部門システム連携、比較軸と費用の考え方までを一つの流れで整理します。院長・事務長・情報システム・医師・看護・医療情報部のそれぞれが判断に使える形でまとめました。

急性期の電子カルテ選定が特殊な理由

急性期は多職種・多部門が同時に、しかも高い頻度でシステムを使います。救急や手術、集中治療など時間的な余裕がない場面が多く、わずかな操作の遅れや画面遷移の多さが診療の流れを止めてしまうため、応答性と操作性が一般外来中心の施設以上に重要です。

在院日数が短く患者の入れ替わりが速いため、入退院や転棟に伴う事務処理も頻繁です。情報量と処理速度への要求が高く、選定でも同時利用の安定性や、記録が算定・提出に直結する業務への対応を重視する必要があります。

さらに、医師の働き方改革により時間外労働の管理が厳しくなるなか、記録や文書に費やす時間の圧縮も選定の背景にあります。単なる機能比較を超え、現場の総労働時間をどれだけ減らせるかという視点が、急性期ではとりわけ重みを増しています。

  • 救急・手術・集中治療など、時間的余裕のない場面での操作性と応答速度
  • 多職種が同時に記録・参照する際の、同時利用の安定性
  • 短い在院日数に伴う入退院・転棟事務の頻度と処理の速さ
  • 手術・麻酔・検査など、部門システムとの連携範囲の広さ
  • 看護必要度やDPCなど、記録が算定・提出に直結する業務の多さ

比較を始める前に固める要件定義

選定でつまずく施設の多くは、要件を固めないまま各社のデモを見て回ります。すると説明の巧みさや声の大きさに引きずられ、自院に本当に必要な機能と、あれば便利な機能の区別が曖昧になりがちです。

まずは自院の業務を棚卸しし、譲れない要件と優先順位を言語化しましょう。機能要件と、応答速度やセキュリティといった非機能要件を分けて整理すると抜けが減り、後の採点でも各社に同じ物差しを使えるようになります。

要件は一度作って終わりではなく、各職種の意見を集めて更新していくものです。医師・看護・医事・情シスが同じ様式で要望を出し合い、優先順位を合議で決めておくと、選定の途中で議論が振り出しに戻る事態を避けられます。

  • 現行システムの更新時期と、移行が必要なデータの範囲・保存年数
  • 外来・病棟・救急・手術など、シーンごとの想定同時利用者数
  • 医事会計・部門システム・地域連携との連携要件と既存の接続資産
  • 看護必要度・DPCなど、記録から算定・提出につながる業務の要件
  • 情報システム担当の人数・スキルと、保守を自院と事業者でどう分担するか

クラウドは急性期で使えるか(可用性・冗長・BCP)

「急性期の基幹システムをクラウドに置いて大丈夫か」という不安はよく聞かれます。結論から言えば、可用性や冗長化、災害時の事業継続をどう設計するかが本質であり、クラウドかオンプレミスかという二分法だけでは判断できません。

むしろ適切に設計されたクラウドは、複数拠点でのデータ複製や自動的な切替により、単一施設のサーバー室より災害に強い場合もあります。一方で外部回線への依存という新たな論点が生まれるため、回線の冗長化やオフライン時の運用を必ず確認します。

実際の運用では、停電や通信障害の際にどう診療を続けるかを具体的に描いておくことが重要です。一定時間はローカルで記録を続け、復旧後に同期する仕組みや、紙運用への切り替え手順を平時から訓練しておくと、いざという時の混乱を抑えられます。

  • 可用性: 目標稼働率と、計画停止・障害時の切替の仕組み
  • 冗長化: データ複製の方式と、拠点をまたいだバックアップの有無
  • BCP: 災害時の復旧目標時間(RTO)と復旧目標地点(RPO)
  • 回線: 外部回線の帯域・冗長化と、切断時のオフライン運用手順
  • セキュリティ: 3省2ガイドラインへの準拠と監査ログの取得

オンプレミスからクラウドへの移行の進め方

移行で最も神経を使うのがデータの引き継ぎです。過去の診療記録や検査結果、看護記録など、急性期でも長期にわたる情報を安全に移す必要があります。全データを新システムへ変換する方式と、過去分を参照用に残す方式では、費用と手間が大きく異なります。

稼働を止めないためには、切替日に作業を集中させず、事前の並行稼働やリハーサルで手順を検証することが有効です。救急や手術が動く病院では、無停止に近い切替の設計と、切替直後のサポート体制の厚さが成否を分けます。

  • 移行対象データの範囲と保存年数、参照専用で残す範囲の線引き
  • テンプレート・セット・帳票の再構築と、現場での検証期間の確保
  • 並行稼働やリハーサルによる、切替手順の事前検証
  • 切替日の人員配置と、直後の障害に備えたサポート体制
  • 移行後の旧システム参照環境の維持期間と、その費用

部門システム連携の確認

急性期は手術・麻酔・検査・画像・生体情報など、電子カルテを取り巻く部門システムが多いのが特徴です。連携の質が甘いと、同じ情報を何度も入力し、確認のたびに画面を行き来する非効率が生まれます。

選定では、どの部門と、どこまで、どの方式でつなぐのかを具体的に確認します。標準規格に沿った連携ほど更新に強く、将来のシステム入れ替えにも対応しやすくなります。個別の作り込みが多いと、更新のたびに費用と検証の負担が積み上がります。

  • 手術・麻酔記録との双方向連携と、記録の正の情報源の明確化
  • 検査・画像・生体情報などの、データ取り込みの範囲
  • 医事会計・オーダリングとの整合と、算定漏れを防ぐ導線
  • 連携に用いる標準規格と、更新時に影響が及ぶ範囲

比較軸の整理

主要機能が横並びに近づいた今、差が出るのは機能一覧に載りにくい要素です。更新性・拡張性・運用負荷・データの取り出しやすさといった軸を早い段階で言語化し、各社を同じ物差しで採点できるようにしておきます。

機能表の丸バツは、実際の使い勝手や画面遷移の多さまでは表現できません。同じ「対応あり」でも、数クリックで完結するのか複数画面を行き来するのかで日々の負担は大きく変わるため、代表的な業務シナリオで確かめることが重要です。

  • 更新性: 継続的なアップデートか、数年ごとの大規模再構築か
  • 拡張性: 増床や新部門の追加に、作り直しなく対応できるか
  • 運用負荷: 日々の記録や保守にかかる手間と、情シスの負担
  • データ標準: 標準形式での出力と、経営分析や次期システムへの引き継ぎ
  • AIネイティブ設計: 音声入力や文書生成が後付けか、設計思想か

費用は三つの山と総保有コストで捉える

費用でつまずく最大の原因は、導入時の見積金額だけを比較してしまうことです。実際の負担は、初期費用・ランニング費用・更新費用という三つの山と、移行や保守まで含めた総保有コストで決まります。

表面の初期費用が安くても、更新や保守、個別カスタマイズの積み重ねで逆転することは珍しくありません。見積もりを取る際は前提をそろえ、次の項目が含まれるか追加費用になるかを一枚の表で突き合わせておきましょう。

見積もりの比較では、五年から七年程度の期間で総額を試算すると各社の差が見えやすくなります。安価に見える提案でも、更新時のライセンス費や保守の値上げ、増床時の追加費用まで含めると評価が変わることがあるため、前提を明記した長期試算を求めましょう。

  • 初期費用: ソフトウェア・サーバー・端末・ネットワーク工事・初期設定
  • ランニング費用: 月額利用料・保守料・回線費・アカウント追加費
  • 更新費用: 数年ごとのバージョンアップやサーバー更新の費用
  • 移行費用: データ移行・帳票やテンプレートの再構築・並行稼働の人件費
  • 変動費: 将来の増床・拠点追加・機能追加に伴う費用の見込み

デモと評価の進め方

デモは、いきなり各社の見せたい画面を見るのではなく、自院の代表的な業務シナリオを渡して同じ条件で操作してもらうことが肝心です。救急受け入れから入院、手術、退院までの一連の流れを、現場の担当者が実際に触って確かめます。

複数社を同じ採点表で評価し、重み付けをして総合点を出します。現場代表・情報システム・経営層がそれぞれの観点を持ち寄り、点数の背景を言語化しておくと、後から判断根拠を説明でき、院内の合意形成もスムーズになります。

評価の途中では、良い印象だけでなく懸念点も必ず記録に残します。後日その懸念が現実の課題になることは少なくなく、選定の議事録は稼働後の運用改善やベンダーとの交渉材料としても役立ちます。決めた理由と決めなかった理由の両方を残す姿勢が有効です。

  • 同一シナリオでのデモ依頼と、現場担当者による実操作
  • 採点表と重み付けの事前合意、点数根拠の言語化
  • 既存ユーザー病院への確認と、稼働後の運用実態のヒアリング
  • サポート体制・障害対応・制度改定への対応方針の確認

よくある誤解と失敗の回避策

「機能が多いほど良い」という誤解は根強くありますが、使わない機能は操作を複雑にし、教育コストを増やすだけになりがちです。自院の診療に本当に必要な機能を見極め、過不足のない構成を選ぶ視点が欠かせません。

「カスタマイズすれば何でも実現できる」という考えも注意が必要です。個別開発が積み重なるほど更新の足かせになり、他院の知見も取り込みにくくなります。標準機能で賄える範囲を優先し、業務側を標準に寄せる発想が有効です。

  • 誤解: 初期費用の安さで選ぶ → 総保有コストで数年分を比較する
  • 誤解: デモの見栄えで選ぶ → 自院シナリオでの実操作で確かめる
  • 誤解: カスタムで解決 → 標準機能に業務を寄せ、更新性を守る
  • 失敗: 現場不在の選定 → 各職種を早期に巻き込み、当事者にする

AIネイティブという新しい比較軸

音声入力や生成AIによる文書下書きは、後付けの機能か、設計思想として組み込まれているかで使い勝手が大きく異なります。診療の流れを止めずに記録できるかは、多忙な急性期ほど現場の定着を左右する重要な比較点です。

AIネイティブ設計の電子カルテ Sakigake Prime のように、入力・要約・文書作成をAI前提で組み立てた製品では、日々の記録負担そのものを構造的に軽くできる可能性があります。比較の際は、こうした設計思想まで踏み込んで確認すると判断の精度が上がります。

たとえば、外来で医師が所見を口述するとその場で文章の下書きが生成され、確認と微修正だけで記録が仕上がる、という流れを思い描くと違いが分かりやすくなります。実際の定着度は、専門用語や略語の認識精度、修正のしやすさ、既存テンプレートとの併用のしやすさで大きく変わるため、デモでは自院に頻出する疾患名や略語を用い、どこまでそのまま使えるかを具体的なシナリオで確かめることをおすすめします。

選定前の実務チェックリスト

最後に、選定会議に持ち込む前に確認しておきたい実務項目を整理します。次のチェックリストを各社について埋めていくと、印象ではなく事実で比較でき、稟議や理事会での説明もしやすくなります。

  • 障害時・災害時に診療を継続できる手段が、具体的に用意されているか
  • アップデートが自動か、都度の停止や追加費用を伴うか
  • 手術・麻酔・検査など、既存の部門システムと連携できるか
  • データを標準形式で取り出し、経営分析や次期システムへ引き継げるか
  • 3省2ガイドラインに沿ったセキュリティと監査ログが備わっているか
  • 導入後のサポート体制と、制度改定への対応方針が明確か
  • 既存ユーザー病院への訪問やヒアリングで、稼働後の実運用と障害時の対応まで確認できているか

想定されるQ&A

選定の現場でよく挙がる疑問と、その考え方を整理します。個別の製品仕様や最新の制度要件は、各事業者や一次情報で確認することを前提に、判断の枠組みとして参考にしてください。

  • Q: 急性期でクラウドは不安 → A: 回線冗長化とオフライン運用を設計で担保できるかで判断する
  • Q: 移行でデータは失われないか → A: 移行対象の線引きと参照環境の維持でリスクを抑える
  • Q: 乗り換えで現場が混乱しないか → A: リハーサルと切替直後のサポートで吸収する
  • Q: 補助金は使えるか → A: 最新の要件は一次情報で確認し、事業者に対象可否を相談する

まとめ

急性期の電子カルテ比較は、機能の有無から、クラウド運用性・部門連携・AIネイティブ設計・総保有コストという軸へと移っています。自院の要件を先に固め、同じ物差しで数年先の運用像を比べることが、後悔しない選定への近道です。最新の制度・点数は厚生労働省の告示・通知等の一次情報でご確認ください。